【五龍神勢揃い】田無神社(西東京市田無町)

この記事は「東京でぜひ行きたい!おすすめの神社6+2」からの単体切抜き記事です。

 

【五龍神勢揃せいぞろい】田無神社
読み方:たなし-じんじゃ
鎮座地:東京都西東京市田無町3-7
最寄り駅:西武新宿線・田無駅(北口)
旧社格:村社
旧 称:尉殿權現[じょうでん-ごんげん]
御朱印:あり
絵 馬:あり

<狛 犬>
表参道の狛犬1

 

<由緒A>(『江戸東京はやり信仰事典』)
祭 神:大己貴命おおなむちのみこと
合 祀:熊野社、八幡社
 正応年間(1288-93)、谷戸やとの宮山に鎮座。
 正保三年(1646)、現在地へ遷座。(青梅街道の開通で村の中心が街道沿いになったため)
 江戸期には倶利伽羅くりから不動の社として知られ、『新編武藏風土記稿』や『武藏名勝圖會ずえ』にも紹介されて居るという。当時のご神体は倶利伽羅不動像。
 明治五年(1872)、田無神社へ改称。
 祭神も級長殿尊から大己貴命へ変更された。
 神体の像は別当寺であった総持寺(真言宗智山派)へ移されている。この寺は谷戸新道を挟んで神社の西側にある。

 オオナムチから別の祭神へ変更する例は多いですが、逆のパティーンは珍しいですね。
 倶利伽羅不動は水辺に祀られることが多く、水源に乏しい田無村ではここで雨請いを行い、神楽や獅子舞が演じられたという。嘉永三年(1850)製作の獅子頭が「雨請い獅子」として二つ保存されており、西東京市の指定文化財となっている。(境内に展示されています)

 

倶利伽羅不動について
 これはちょっと聞いたことがなく何だろうかと思っていろいろ調べてみると、倶利伽羅龍王と不動明王を合体させてるようですね。
 『法華経』に登場する守護神(八大龍王)や龍女りゅうにょの成仏譚に関連した説話や伝承は多いんですが、密教も雨請いの修法で龍王を使うそうで、それが「倶利伽羅龍王」なんだそうです。龍は言うまでもなく水の属性ですね。
 一方、不動明王は『大日経』で大日如来の使者とされますが、怒りや炎といった属性をもちます。また真言教学では教令輪身きょうりょうりんじんといって、大日如来の一面として同体化されています。筆者は真言学は専門ではないので、この二つの解釈がどう体系化されているのか、火の不動と水の龍王がどういう根拠で習合するのかよく判らないですが、「倶利伽羅龍王は不動明王の化身」とする説がありました。(『仏尊の事典』)
 コトバンクの『精選日本国語大辞典』にもう少し詳しい説明があって、「不動明王の智剣が変じた化身。形像は、岩の上で火焔に包まれた黒龍が剣に巻きついて、それを呑もうとしているさまに作られる」そうです。(https://kotobank.jp/word/倶利伽羅龍王-2032793)
 ただ、これがどんな経典類に基づくのかは不明です。
 この説によれば、龍は一応登場するものの火がかなり強調されていますね。
 「火に包まれる龍」と聞くと、怨みや執着で龍蛇の姿になって苦しむ女性(が『法華経』で救われる)といった感じの説話をすぐ思い浮かべるのですが、密教では火や水、男と女など相反するものを一体(真理)と看做す解釈はよくあるので、「火に包まれる龍」とか「剣に巻きつく(呑む)龍」というのも矛盾や相剋そうこくではないのでしょう。
 ちなみに、空海さんが京都の神泉苑で行った雨請いはつとに有名ですが、このとき使われたのは『請雨経』、登場する龍は善如龍王(善女龍王)です。『本朝神仙伝』では妨碍ぼうがいがあって効果が無く、アノクダツ池(阿那婆答多池)の善如龍王に直接はたらきかけて降らせています。補註によると、この池は『大唐西域記』に出て来る池で、八地菩薩が願力をもって龍王に化して潜み、清い冷水を出す云々。
 田無村の場合は、「田無」と言われるほど水源に乏しい土地だったというので、倶利伽羅不動というような特殊な形態が採られたと解すこともできそうです。


田無神社社殿

<由緒B>(「境内案内板」)
名 称:尉殿大権現田無神社
主祭神:尉殿大権現(級津彦しなつひこ命・級戸辺しなとべ命)、大國主命
相 殿:須佐之男命、猿田彦命、八街やちまた比古命、八街比売命、日本武尊命、大鳥大神、応神天皇、御神徳の高いすべての神さま

 創立年不詳。
 本宮は正応年間(1288-93)に谷戸の宮山に鎮座。級津彦命・級戸辺命を祀り、尉殿大権現(尉殿權現社)と呼ばれていた。
 元和八年(1622)、江戸開府に伴って上保谷に分祀される。(尉殿神社)
 寛文十年(1670)、現在地へ遷座。
 明治五年(1872)、田無神社へ改称。

 尉殿大権現の姿は金龍神であり、東西南北に祀る青龍神、白龍神、赤龍神、黒龍神と合せて五龍神と称す。
 御神徳:豊穣、除災。(その他商売繁盛、学業成就、病気平癒、縁結び、国土開発等)

 大國主神が主祭神の扱いになっているけれども、由緒に関する記述は無い(明治期に合祀か)。また倶利伽羅不動についても一切記述が無い。
 風の神として知られるカミが金龍の姿というのは大変面白いです。倶利伽羅龍王は「黒龍」とされますが、ここの神体は「倶利伽羅不動」。かなり独特の珍しい像だったのかも知れません。あるいは『延喜式』祝詞に龍田大社に関する祝詞があるんですが、そこに「黄金の馬具や武具、機織具を奉る」といった文言があるので、そこら辺が関係している可能性もありそうです。

 


参道狛犬2
おけつがかわいい

 

級津彦命・級戸辺命とは
記・紀に登場し、一般的には風の神とされる。

 安政六年(1859)に建造された本殿および拝殿は東京都指定の有形文化財。
 彫工師は川越氷川神社や成田山新勝寺釈迦堂などを手がけた江戸の名工・嶋村俊表。(「境内案内板」)


田無神社拝殿

 

境内の龍(一例)

手水龍

 

 

絵馬(一樂萬開)

御朱印

<アクセス>

最寄り駅:西武新宿線・田無駅(北口)

【参考】
井上光貞・大曽根章介校注『続・日本仏教の思想1 往生伝 法華験記』新装版(1995/岩波書店)
三橋健・白山芳太郎 編『日本神さま事典』(大法輪閣/H17)