【随想譚】大空スバル5周年記念LIVE感想

鑑賞

哀しげな夢を見た
目覚めたときにはもう朧気で
ただ左腕の痛みだけがあった

パソコンをつけてブラウザを立ち上げると
東京都の天気予報が表示される
いまだに東京都のままだ
自分が居る土地の天気は見ない

カーテンの隙間から空を見上げる
建物に遮られた断片的な空に
たのしげな気配が漂っている
幼い頃はその形に
たくさんの名前を付けていた
遠い遠い昔に死に絶えた
竜の名を

あの日出逢った彼女には星の名前があった
空にかがやく星々にはそれぞれ意味があって
人はその動きと方位とで
今のことやこれから先のことを知ったという

彼女を見るためにもう少しがんばろうと思えた

 

【 #大空スバル5周年 】大空スバル5周年記念ライブ ~ 5th Anniversary Live Stellar Symphony ~【ホロライブ/大空スバル】

①「アドベンチャー」
某テーマパークと関連した歌らしい.
その非日常的な場所に来ることができた喜びと特別な体験とに彩られた一日のわくわくした感じをホロライブへの所属とそこでのライブにうまく重ねている.
衣装は制服(JK)イメージから始まり,サビでマネージャー姿に変わる. ホロライブに加入する前の一般人の頃をほうふつとさせる演出だ.
しかし「ここに来れて良かった」という楽曲のメインテーマを歌い上げた直後に,アイドル衣装にチェンジするまさかの三形態.
躍動感のあるリズムとメロディでコンサートの幕開けにも相応しい一曲.

②「サインはB」
アップテンポで合いの手が賑やかな曲.
まだ駆け出しらしいアイドルとそのアイドルを推してくれるファンについて,アイドルの視点から見た歌.
バックコーラス兼ダンサーとしてちょこ先と姫森さんとぼたんさんが友情出演. とても賑々しい.

③「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」
ガラッと雰囲気を変えて夜のネオンを思わせるライティングのステージ.
やや解りにくい歌詞だけれど うまくいかない二人の感じを歌った?異色の恋愛ソング(水商売系の女性視点の歌かも?)
男性(ファン)がアイドルに求めがちな疑似恋愛的なこもごもや 配信者へのちょっと強引なコメントや 曲解じみたコメントに対する微妙な本音にも通じてくるような歌詞で 配信者としての苦労が偲ばれる.
②→③と続けて歌われることにも意味を見いだすなら アイドルとしての振舞というのがやっぱりちょっと重荷というか 戸惑う点が多々あったのだろうと推測される(スバルさんが加入した頃のホロライブはまだアイドル路線ではなかった)

これらの三曲は 夢見る乙女から上京してカバー社と契約し 都会での配信者(Vtuber)になって めくるめく新生活を始めながら いつしかアイドルに装いを変えることになって 戸惑いながらも精一杯に演じていった時代への思いを表現したパートと言えるだろう.

 

④「気まぐれメルシィ」
グループの共通衣装からオリジナルのアイドル味あふれる衣装にチェンジ.
ダンサブルなリズムにのりのりの足首のアップから始まるさいこーーーーーの演出.
この衣装ほんま最高!超絶かわいい!
女性のやきもちの歌?でツンデレ味もあるけど 結構意味深な歌詞で 最終的にはラブラブなってるやんみたいな歌.
そんな歌詞に合せた振り付けも一つひとつが 普段は絶対に見せない(というかありえない?)あざとかわいらしさにあふれてて うおぅ かわいいなあもう! ・・・文体が乱れるかわいさだ.
衣装と振り付け 髪型と表情 この絶妙なる正統派美少女アイドルハーモニー. これは本当にあのスバルなのか.
想像(妄想ともいう)が生み出してしまったイマジナリーガールなのでは!?? グハッ,,ロングヘアがとどめをさしにくる.いやショートならまだギリスバルに見えるんだけど ロングはあかん たまらん 反則やん.

⑤「マーシャル・マキシマイザー」
「気まぐれメルシィ」がちょっと懐かしみのある王道的なアイドルだとすれば,この曲はいかにも現代的な先端サブカルチャーのバーチャルアイドルを思わせる.
楽曲もいかにもDTM的で歌詞にいたっては日本語の文章としての成立を破棄し まるで陀羅尼のように会話フレーズを連ねて それでいてどことなくロボットの感情とでも言うような一つの物語性がかすかに伝わってくる.
曲名からすればその作り手のことのようだが,内容はそれを皮肉る感じがあるので 自分に対する周囲の評価をロボットとその作り手に置き換えたものか.
そう考えると,スバルがこの歌を選択したことの意味もよく理解されてくる.
アヒルなのか女の子なのか 履いてるのか履いていないのか メスを出せメスを出し過ぎ ,アレをしろコレをしろ, そういった周囲からの声に向き合うてんやわんやの日々に,ふと自分を見失いそうになる. アイドルとしての自分 配信者としての自分 そして本当の自分――  自分の理想像を攪拌しながら作っては壊し ,壊してはまた造る. 自分で自分を追い込んでいけるのは Mの証左でもあるだろう.
バックコーラスに男声も入ってるように聞えるのが珍しい(エンドロールには女性の名前しか見られないので加工した音声かも)

⑥「you」
直接語りかけるようなメッセージ性の強い曲. もう会えなくなってしまった人の曲.
けれどスバルが歌うことでこれも二重のテーマを持つようになる.
自分を見失い(あるいは正解がわからなくなった)彼女に対し離れていった「あなた」が居た. そっと寄り添う「あなた」も居た. 5年間という歩みの中で出逢う人もいれば別れる人もいる. そんな「別れた人」への気持.
これはステージの演出,カメラワークも素晴らしくて,ミュージカルのワンシーンのようなドラマ性に引き込まれる.
ゆったりとした舞に合せて長い黒髪もふぅわりと舞うのが「THE 美少女 with 薄幸」な感じでグッとくる.
湖上を歩くような演出は,禁忌を犯したために別離を余儀なくされた男性を忘れられない天女といったイメージで 実に神秘的だ. 特に彼女の後方からステージが映る映像や,サイドから星空が大きく入るように撮った映像は, 孤独感が伝わってきて切なさが弥増す. この曲の映像はどこで止めても一枚の絵になる.

⑦「カルマ」
訪れた別離にやるせない思いを抱えながら, 続くこの曲では両者の関係性を「カルマ(業)」として相対化しようとする.
この辺がスバルさんの優しさであり,またMのゆえんでもある. そしてまたこれも「自対他」だけでなくその議論の対象となってきた様々な葛藤, 自分の内の理想と現実, 建前と本音といったものにうまく折り合いをつけていく. まさに「1とゼロの間」を採ることによって.
「鏡」もキーワードとして出て来る. 鏡に映る鏡像は,左右反対で平面的な虚像だが,その虚像を通じてしか我々は自分の姿を正面から認識することができない.
つまり虚像と向き合うしかなく ,そうすることが己を知ることにも通じる. 奇しくもこれは天照大神が「鏡を我の如くいつき祀れ」と宣言した神道の基本理念にも通じてくる.カミに捧げたモノを直会なおらいで頂くのも,すべてカミと同化するための儀礼である.
言い換えれば,カミという存在を媒介としつつ, 神事の参加者が同じ業を背負うことである. だから神道には教義が無いのだということもできるだろう. カミの視線は,同時に自分自身の視線でもあるからだ(儒教との親和性はまさにここにある)
ひるがえって,スバルも「様々なスバル像」や「様々な視聴者」と向き合い,すべてを呑み込んでみせた上で答えを出す(でもいっぱいいっぱい過ぎて忘れちゃう辺りがスバルだw)

この④~⑦の四曲はVtuberになってから経験した様々な思いについての歌といえるだろう. 突然のアイドル路線への戸惑いと, よりアイドルらしいライバルたちをもてはやすリスナーへの複雑な気持.
辛辣なコメントと応援のコメント. 出逢いと別れ. 初期スバルからの脱皮. 持ち前の元気と明るさとMの気質とで,すべてに向き合った上で,人の持つ業として自他ともに受け容れる. そして――

⑧「ブラック★ロックシューター」
すべてを抱え込んだ彼女は走れなくなってしまった.
ただこれは隠された本音というべきものであって, 配信では決して見せない感情だろう.
合わないモノを受け容れた苦痛に必死で耐えながら自分を奮い立たせていく. 食いしばった口の端から一条の鮮血が流れるような苦しみに, 折れそうになりながらも決して諦めない!
立ち止まることがあっても, 俯くことがあっても, 彼女は心の奥底から117デシベルの声を出す.
「もう逃げない!」と.
停止からの再生 対峙からの前身 再出発を決めた強い意志.
シャドウで華を添えるバックダンサーも,どこか文字だけで存在しながら見守っている良心的なリスナーを想わせる.

⑨「スターライト」
再出発した彼女の姿がこの曲「スターライト」に象徴されている.
その元気溌剌さから「太陽」と言われることが多いけれど,やっぱり名前が示すようにきら星なんですよね.
これがオリジナルの持ち曲ということは大きくて,やはり本人もきら星だということを改めて自覚したのではないか(過去のライブもスバル星がテーマとなってはいるが今回は太陽の要素をまったく持込まない演出で統一感が比じゃない).
しかも夜にかがやく星だからしっとりしてるのかといえば,そうでなく 満天のきら星流れ星といった感じで非常にスピード感がある. アップテンポで蹴りまで繰り出すダンスからは,マリオカートの無敵アイテム「スター」をほうふつさせる.

曲の終盤では同期である2期生のメンバーがすっと集合してスバルのバックに重なり,そこからぱっと横並びに展開するシーンは思わず見とれた. シャッターを押せなくてただただ魅入った.
ホロライブを知って約八ヶ月,毎日のようにチェックするようになったのはほんの半年ほど前だ. ハマルきっかけをくれたのはスバルさんだったから(あとみこちもね)スバルさんには特に注目してきたけど, 正直ほかのメンバーはまだわからないことのほうが多い.
それでも一つだけはっきりとわかることがある. それはここにいるあくあさん,しおんさん,ちょこ先,あやめさんが, スバルと同じ5年間を歩いて来たということ.
その道のりは長く険しくて,傷つくことも多かったと思う. その5年間を,一人の脱落者も出さずに歩き,彼女たちは今ここに居る. 同じ景色を見ている.
そこまで思い至ったとき 自然と目頭が熱くなった. これは二期生という星座の中の「スバル星」にフォーカスした曲といえよう.

これはほんとに素晴らしい曲で, 間違いなく彼女のアンセムになるだろう. いや,ほんとにこの曲は今書きながらまた見返してるけど,なみだがにじんでくる. その感情は哀しさや切なさ,あるいはうれしさとも違った性質のものだ. それはなにか神々しいものが顕現したような,奇跡的な瞬間に偶然立ち会えた時の感動, 忘我の境地に似ている.
(余談だけど「三角形+一目」の演出(ポーズ)は誤解を招くから「閉眼」に変えて正解)

⑩「Our Bright Parade」
これはもう応援歌ですよね.「そっち」からみんなを応援する歌. 私たちはここまで来れたよ.君たちもさあ一緒に,というような.
ここまで来ると もはや大空スバルを超越して「ホロライブ」といっても過言ではないだろう.
ホロライブとは何か?という質問への答えとして,この曲を歌い踊る二期生勢揃いの動画は,充分条件を満たしていて異論はないはずだ(一期生を否定するものではなく,飽くまで解の一つとして含まれるという意味)

 

⑪「Stellar Symphony」
「星空の交響曲」といった意味合いの新曲で 今回のライブのコンセプトでもある.
内容は広義のラブソング.
個人的にスバルさんは太陽のイメージよりもこういう内側から強く灯ってるイメージだからすごく合ってる. 個人的解釈一致. 太陽はその唯一無二性から一神教の神的なイメージが強く,それと重ねられる本人もちょっと戸惑いがあるんじゃないかな.
それよりも無数の星々の中でひときわかがやきを放っているいくつかの星の一つが昴星. そしてその星はほかの星たちと組み合わさることで違った絵を描き出す. これこそVtuberの中のホロライブ, その中の二期生, その中の大空スバルという図式にあてはまるものである.
そういった星々の中のスバルをイメージした楽曲だが,一緒に駈け抜ける「スターライト」とは違って,夜空にたくさんある星々を繋いで星座を作ろうという詩的な歌.
夢を描くことと星座を描くことが重なり,その星に願いを託しつつも,自分がその星座の一部になろうという印象. 当然それはほかの星と繋がることで完成するもので,その絵に見える星の配置はまさに奇跡.

五年間の集大成としてこのような楽曲が提示されたことの意味は大きく,一緒に歩んできた二期生が去って舞台に一人になっても, 自分の理想, 歩むべき道が明確化されており,確固たる自信に裏打ちされた姿が強く印象づけられてくる.
更に一対多の存在に成りながら,多の中に一を見いだす視線,感性は,まさに菩薩ぼさつのそれであり,自覚し辿り着いた者の為せるわざである. 大空の昴としてその輝きと愛らしさを体現した彼女は,スバルド菩薩としてこれからも衆生しゅじょうを癒やしていくことであろう.

万感の思いの籠もった「ありがとうございました!」の言の葉が,終演後のステージに静かに舞い降りる. 彼女の姿はもう見えないが,きら星色の光だけが閉じたまぶたの裏に仄かに灯り続けて居る.

 

<あとがき>
先週からずっとばたばたしていて,頭痛も治まらず,とりとめの無い駄文になってしまったけれど,二月中に感想を上げたかったので投稿しました. 絵もたくさん描きたかったけど一枚しか描けず彩色も間に合わなかった・・・
配信のコメントを見てると「上手くなった」という声がちらほら目に留まった. 自分は最近知った勢だからその差があまり実感できないけれど,昔から見てるファンからそんな風に評価されるのはやっぱり表現者として何よりうれしいだろうなと思った.認めさせたという自負でもあるし.
自分もそんなスバルさんから得るもの学ぶものは少なくない. 若い子ががんばってるのはうれしい.
そんな若人の活躍を見るために,もう少し生きなければなと思った。

 

*この感想は、いくつかの配信でスバルさん本人が語られていたこれまでの想い出と、今回のライヴの演出、各楽曲の歌詞や曲調などから筆者が独自に解釈したものであり、ご本人の意図や演出家・作曲者らの公式見解と異なる受取方をしている可能性もありますがご了承ください。