『因幡の白兎ー本当は白じゃない?』

民俗伝承[日本]


 白兎はくと神社は、日本最古の歴史書『古事記』に出て来る「稲羽いなば素菟しろうさぎ」を主祭神とする神社で、『日本書紀』に登場する保食神うけもちのかみ豊玉姫命とよたまひめのみこと合祀ごうしされて居ます。
「稲羽」は旧藩名の「因幡」と同義です。


「稲羽の素兎」の毛の色は不明
 現在では「因幡の白兎」と表記する例が多いですが、原文では同じ読みでありながら「稲羽の素菟」といった異なる表記がされています。
 この兎が大國主神と初めて出逢うシーンを読むと、うさぎは「裸(あかはだ)」と書かれてあります。
 またうさぎが事情を説明する段では「衣服(ころも)を剝ぎき」とあり、大國主神の助言に従った結果「本の如し」と記述されるので、実際うさぎがどんな毛色なのかは不明です。

 では「白」はどこから出て来たのか。

 上の文章に続いて「此、稲羽の素菟ぞ。(これが稲羽の素菟だぞ)」と解説的な記述があります。
 註釈では、「素菟」の「素」は「繊維の白さを表す場合が多い」と言い、字解も「繭から取出した糸、白い糸」とされます。
 ニュアンスとしては「白い毛」よりも「白い着物」のほうが近いですが、色味としてはとりあえず「白系」と言えそうです。

「此、稲羽の素菟ぞ。」に続けて「今には菟神とふ。」と記述されて居ますので、このうさぎは『古事記』が成立した時点で既に神として認識されていたことが窺えます。
 また、恋愛の成り行きを予言したことから、縁結びの神でもあります。


龍女神も祀られて居る
 合祀されて居る豊玉姫命は海神わたつみの娘で、出産する時に竜の姿になったと語られています。(『日本書紀』の記述。『古事記』では和邇(サメ)の姿)


和邇論争
 この「和邇わに」が何であるかは所説ありますが、「サメ」とする説が有力です。
 一方、1964年大阪の待兼山まちかねやまで見つかった大型の鰐の化石は、1983年に新種であるとの学説が出され、「Toyotamaphimeia machikanensis(トヨタマフィメイア・マチカネンシス)」と命名されました。
 これは古代の和邇をサメではなく「鰐(ワニ)」だとする見解に基づいた命名です。
 個人的には「海神の娘」だから「龍」で良いと思いますけどね。(記紀には大蛇と婚姻する説話もあるし)
 これについては別の機会に考察しまとめてみます。


白兎神社(鳥取市白兎)
祭神:白兎神、保食神、豊玉姫命
祭日:四月十七日
狛犬:境内・拝殿前(明治期)
狛うさぎ:境内・参道。

うさぎの縁起物

東京からは飛行機(羽田発の国内線)が便利です。
鳥取県内では車での移動をおすすめします。

【参考文献】
『新編日本古典文学全集1 古事記』(小学館)
『新編日本古典文学全集2 日本書紀』(小学館)
「白兎神社の由来」(白兎神社)
『日本神さま事典』(大法輪閣)
『神道史大辞典』(吉川弘文館)
『怪異古生物考』(技術評論社)