「子供の声をしたダイジン」について ―松王人柱伝説から読み解くダイジンの正体―

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  • 投稿日 2023年5月22日
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キーワード:『すずめの戸締まり』 人柱 要石 八幡若宮

はじめに
『すずめの戸締まり』は2022年に発表された新海誠の小説作品で、同年に劇場アニメ映画としても公開された。廃墟などの「失われた風景」のある土地を悼むことをコンセプトに、主人公の鈴芽が、椅子にされた草太と伴に日本各地の「後ろ戸」の戸締まりをしながら、猫になって逃げ出した要石のダイジンを追いかける物語である。
本稿はそのダイジンと、もう一つの要石サダイジンに注目し、その正体に迫るものである。

キャラクター設定に残る謎
映画版の考察でも確認はしたが、改めてパンフレットに記されたダイジンの設定について見てみよう。

要石が猫の姿になったもの(中略)強大な存在で大事な役割を担っているということで大臣=ダイジン。同時にダイジン=大神の意味も込められているとか。[1]

次に、小説に描かれたダイジンを確認する。
ダイジンは宮崎県の廃墟に穿たれた要石であったが、鈴芽によって抜き取られると、白い猫と化し、閉じ師である草太を椅子(要石)に変えて自分の身代わりにしようと画策した。しかし東京上空の巨大ミミズに要石(椅子化した草太)を打ち込んだ鈴芽が、意識を無くして落下していく時、ダイジンは「人より大きな獣」に姿を変えて衝撃を緩和しており[2]、この白い猫の姿は固定的なものではないことがわかる。