日本龍蛇神回向の旅04 奈良県「吉祥龍穴(龍穴神社奥宮)」

参拝の記録・記憶

幕間―夢壱夜―

 白龍神社(龍田大社末社)、大神神社龍王宮(墨坂神社末社)を参拝回向した奈良の旅初日、不思議な夢を見たので記しておく。

 二人の少女にうっすらと発光している黄色い珠状のものをプレゼントするといった夢。この二人の少女は見知らぬ少女だったが、果してこの夢は何を意味しているのだろう。

 午前四時五十分。隣部屋の老人連れがうるさくて目が覚める。
 布団をかぶるもテレビのボソボソとした音声がダダ漏れに聞こえてくる。
 予約が埋まってないなら部屋割りも隣接しないよう配慮してくれたら良いのにと思いつつ、あまりにうるさいので、外が白みだした段階で予定より一時間早いが出発することにした。

 しかしいざ出ようとすると車のフロントガラスが凍ってる!?
 さすがは吉野の麓といったところか、それとも川が近く水気が多いせいなのか。気温は7度。吐く息が白い。
 ワイパーを動かしてみる。つるつる撫でるばかりでまったく役立たず、運転席から外の様子も全く見えない。
 宿に戻ってお湯を借りてこようかと思ったが、朝の仕込みで忙しそうだった女将おかみさんの姿が浮んだ。
 さてどうしたものかと缶コーヒーをすする。またワイパーを動かす。カササササと言うだけでやはり意味が無い。
 一旦外に出てガラスの表面を爪でこすってみる。諏訪湖すわこのような分厚い氷ではなく霜に近いようで少し力を入れると取れる。
 ショルダーバッグに入れてたタオルでこそぎ落す。サイドミラーと運転席・助手席の窓もこすりまくって、10分ほどで何とか走れそうな感じになった。

 後から知ったことだが、凍った窓にお湯掛けると最悪割れるんだそうだ。仮に割れなかったとしても、水分が残っていたら走ってるうちにまた凍るらしい。
 想定外の出来事だったが、奇跡的に正しい判断ができてたようだ。(このタオルも旅仕度の最中に何となく目について「水場に行くから一応持って行くか」と詰めたものだった)。

龍穴神社奥宮へ

 龍穴神社は県道(R28)沿いの本宮と、800メートルばかり林道を登ってそこから渓谷へ下りていく奥宮(吉祥龍穴きっしょうりゅうけつ)とで構成される。
 道路地図で見ると、本宮のほうは記載されて居るのだが、奥宮の記載は無くアプローチも不明だ。
 事前にネットで調べた限りでは本宮から割と近い場所に登り口があるらしく、車でも上がれるといった情報を見つけたのだが、「道が細い」というだけで駐車スペースや詳しい道路の状況、歩いた場合の所要時間などは不詳であった。

 ナヴィが示したルートは国道R369から県道R28へ入り北上するルートだった。
 目的地へ近付いたので速度を落す。入口はすぐに見つかった。写真を撮り山道へ入る。
 路面は比較的良さそうだ、と思うも束の間、ボコボコに割れた道が現れる。えぐれた路面、堆積する落ち葉、落石注意の看板、苔むす縁石は片側だけにしかなく、もう片方は溝があるようにも見えるが土と落ち葉とがカムフラージュし境目が判りづらい。
 この調子だと上の方も酷いかも知れない。下手すると離合時に脱輪する危険もある――。「急がば回れ」という格言が脳裡を過ぎった。
 細かい道のりを記録したかったこともあり、ゆっくりバックすると、少し広い所に車を停めて歩くことにする。七時五十三分。缶コーヒーだけで山登りを始める。

 カメラを回しながら、独り、ひんやりと薄暗い林道を登る。
 左側は谷で森が広がり、右側は荒々しく切り立つ岸壁に様々な植物が垂れ下がる。
 少し歩くと舗装をし直したのか路面が良く成った。所々にガードレイルとカーブミラーも設置してある。
 坂は傾斜があり結構きつい。息を切らして大きなカーブを曲がると森の切れ目に顔を覗かせた太陽が、宝珠のように輝いているのが見えた。足を留めて深く呼吸をする。前日からの潔斎もあってか、心身伴に清々しい心持ちだ。
 息が整いまた歩き始める。後ろから車の近付いてくる音がする。ちょうど「天岩戸あまのいわと」の辺りで軽トラックが一台、私を追い抜いていった。
 入口から天岩戸までは歩いて7~8分だった。この天岩戸の近くに車が何台か置けそうな少し広めのスペースがある。

 再び歩き始める。お腹が空いてきた。いや、既に空いている。最近太り気味なのでちょうど良いかとも思う。
 傾斜はほとんど無くなって歩きやすい。カーブを曲がると白い鳥居が見えた。
 岩戸から鳥居までは数分だった。自分の脚でここまで来たという達成感と、これから神域へ一人下りてゆく昂揚感こうようかんが入り混じる。
 鳥居の周辺も道がやや広く、数台なら停められそうである。但し台数が多くなると切り返しが難しそうだ。
 ここより先も道路は続いて居たが通行止めらしい。だが、先ほど追い抜いていった軽トラは不思議なことに見当たらない。

 大蛇のようにくねり連なった階段を下りる。小砂利が敷いてあるので注意深く下りないとジャリに足を取られそうになる。
 下りてゆくに随い、涼やかな清水の音も近付く。
 途中、木が斜めに生えている所があった。まるで「入口」のようだ。半身になって、頭をやや屈めるようにしてくぐる。
 私の拙い文章だけだと険しい道に思えるかも知れないが、実際は払った枝がきれいにまとめてあったり、人の退避場所があったりと、非常に良く整備されている。

 

 
 鳥居から龍穴までは数分だった。
 下りきった場所に簡素な拝殿があり、その向こうに口を開けた真っ黒な穴と注連縄。たった一本注連縄があるだけで底知れぬものを感じてやまない。
 辺りを流れてゆく水量はそれほど多くなく、画図に描かれた瀧川のようなイメージはない。
 息を整えカメラをバッグに固定し、周りの気に意識を集中する。水の音に包まれ雑念が薄まったところで礼拝。つづいて数珠じゅずを構え、龍神回向用に編纂した経文を広げる。一つ、息を吐く。
 読経を始めたが声の出が悪く申し訳ない心持ちになる。誰も居ないのでマスクを外すと下腹に気合いを入れる。
 時折り、拝殿右手の水流のある辺りを振り向く(自然の所作で、何故そっちにも經を振り向けたのか分からない)。
 それからまた龍穴の奥にまで届くよう、一所懸命に読んだ。

 もうすぐ読み終える時分で背後の上の方から微かに人の話し声がした。参拝客が来たようだ。
 こうして一番乗りで読経ができたことを考えると、予定より早い出発で良かったと改めて思った。あの朝っぱらから非常識な老人に感謝すべきかもしれない。
 階段を登り始めて間もなく、二人組(初老の男と年齢不詳の女性)と行き合い会釈する。鳥居を出ると傍に車が停めてあった。
 ここは本来、雨請いの神事を行う神域だ。私は回向というはっきりとした目的があったが、果して彼らはいかなる念いを懐いてこの地へ来たのだろうかとふと思う。

 坂を下りてゆく途中でその車が私を追い越していった。

【龍穴神社奥宮(吉祥龍穴)アプローチまとめ】

<徒歩によるアクセス>

 県道(R28)から徒歩で15~20分ほど(片道実測値。写真撮影時間込み。本宮境内の貼紙では25分となっているがこれは本宮から林道までの移動時間(約400m分)が加算されている)。内訳は以下の通り。

林道入口~天岩戸

坂の入口付近から天岩戸まで7~8分。天岩戸までの坂は結構きつい。







天岩戸~鳥居

岩戸から鳥居までは数分。割と平坦な道。



鳥居~龍穴

鳥居から龍穴までは数分。小砂利の敷かれた階段。途中木が斜めって「三角ゲート(⊿)」風になってる箇所あり。




<車によるアクセス>

 路面は基本舗装路だが、一部悪路及び離合困難なところあり。
 駐車スペースは岩戸の辺りが一番広いのでこの辺に停めると良い。鳥居付近も停められるがほかの車が何台かあるとUターン(切り返し)が難しいかも。
 雰囲気があるので健康な方・時間に余裕のある方は歩いていくのもおすすめです。(坂に入ってすぐのとこにもスペースあり)
 ここはナヴィでも出ないと思うので「龍穴神社」で設定すると良いです。北から来る場合は神社を越えて左手に入口。南からの場合は、このサイトで説示したごとく神社に着く400m手前・右手に登り口がある。