HACHI『Revealia』総評

HACHI『Revealia』総評

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四聽目以降、気になる曲・箇所を繰り返し聞き込み、いろいろ考察。

全体の印象
 いろんな音が混ざり合って、テンポも演奏の軽重も途中で変わる曲が多く、単純に○○風といった判りやすさがない。アバンギャルド(前衛的)というか、音の装飾に非常にこだわって、簡単にはわからせねーぞという意志で造り上げたという感じを強く受けます。
 歌メロも抑制的で、歌のアプローチもこれまでと大きく違った曲があり、「これ、はちたやちゃんなの?」ってぽかんとする曲もありました(①④)。

 それはまた前作の延長線上に位置づけがたいことも表わしてます。
 一番大きな違いは、プロヂューサー。前作は三人。今作は六人。その六人に前作の人は居ない。さらにサポートの人やイグゼークティヴな方々まで含めると、とてーも多いですね。
 作詞・作曲には馴染みの人たちも見られるし、路線を大幅に変えたわけでもないのに、雰囲気があきらかに違う。特に前半。

 細かく見ると、①~④で一つの重いテーマがあり、⑤~⑧でそれが徐々に軽減されていき、同時に⑧から視点人物が変わり⑨は続行だけど雰囲気はもう明るい。⑩は両義的な視点だけど救いの息吹が感じられ、⑪ではもう吹っ切れてる。⑫は作詞がHACHIだから、物語の中に彼女本人が出て来る感じ。そして⑬は「体験」がもう過去の「物語」になった、つまり一つの章が終わって(区切りを付け)、別の章が始まった(始めようとする)。
 一人の人が作詞・作曲をしてるわけではないけれど、コンセプトアルバムの趣がある。

 重苦しいのは、過去のダークで辛い体験を示唆しているからではなく、そこに沈む人を客観的かつ批判的に捉えた言葉の数々のせい。指摘された事柄はその通りで、自分のことだねと受け止める人も居るだろう。けど。。。
 それを認めてしまえば、自分という存在そのものが、生きながらえていることと不協和を起こす。そういう重苦しさがある。
 あるいは、母親が子供を叱って突き飛ばしておきながら、次には泣いて謝りつつ抱き締めるような感じ。子供としては自分が悪いのだと思いつつただ俯くばかりだろう。「母親の論理」(例えば秩序の回復、効率化の達成)としては間違ってはいない。けど子供は、その母の理想を容易に実現することはできない。そういう息苦しさ。ああ、書いててもなんか苦しくなるな。。
 これまでのファンの人が本作をどう評価するのかとても気になりますね。

 と、こんな感じで、繰り返し聞き込んで歌詞も分析してみると、一聴目の心象とは随分異なった印象になりました。

 

<総評>
歌詞
 今作は歌詞が生々しい。素手で果物を握り潰して出した果汁のような、所々果肉が混ざってる生々しさ。
 人は事実を突き付けられるとただ無言になって目を背ける。そんな感じの歌詞が多い。
 だけど、曲調には(アレンジも含めて)、一部を除き極端な悲壮感というものはない。そこに不思議が生まれる。
 これまでの曲はどちらかというと、「喜・楽・快・哀愁」といったテイストを「誰かの物語」として歌い上げるニュアンスが強かったので、時に客観的に、時には自分の物語のように重ねて浸ることが多かったが、本作はテイストが複雑で生々しく(惨・悲・無情)、かつ歌われる歌詞の主語が「若い女性」に限定的なものが多く、それゆえにHACHI本人と感じることも少なくなかった。もともと「自己開示」がテーマであることは日々の配信等でもリリース前から触れられていたが、これまでのように「僕」だったり、性別が両義的(曖昧な「私」)だったり、年齢がやや高めの主人公(遠い過去を振り返るタイプ)と比べて、あきらかに「若い女性」を思わせる歌が多いので余計にそう感じた。
 果物は、意外と甘くないのだ。

 

曲・アレンジ
 歌と曲が一体になってるタイプの曲とそうでないものがある。後者は、お芝居とその演出といった感じがする。場を盛り上げるためにBGMや効果音を付けますよね。そういう、なんていうか、「付け足した感」て言うんでしょうか。
 料理で言うと、基本のレシピに無いものが加えられてるような。ちょっと変わった味付け。そして具材は生々しい。喩えるなら、良い素材(北海道の大豆使用)の納豆を出されて「わあ、納豆好きなんですよ。あ、カラシ入ってるんですね・・・タレとしょうゆだけで良いですよ。え?砂糖醤油?・・・・・・砂糖醤油?!」みたいなw

 演出がまったく無い状態だとどんな風に聞こえるだろうかと想像する。詩の朗読のようだろうか。それとも独白のようだろうか。でもきっと彼女はすべて歌にする。そんな気がする。そうすると、やや過剰な演出という気もしなくもない。
 BGMや効果音は大事だ。それはそう。水戸のご老公が「助さん、格さん、やっておしまいなさい」と言って助格が刀を抜いた後、吉本新喜劇みたいな音楽が流れたら悪者もずっこける。そこはやはり勇ましいBGMで、おじいちゃんが孫の手を振り回すようなやつでないと駄目だ。刀と刀がぶつかってパフパフいってたら変な気になる。
 然るにここでは、生々しい歌詞に対し、それに沿ったり盛り上げたりする音ではなく、むしろわざとずらしたような音を当てている。そのリズムの掴みづらさは独自性と新鮮さの維持をもたらしており、ここが従来の楽曲と味わいの異なる点である。
 演奏は全体的に控えめで、その代わりに音がたくさん重ねてある。
 アレンジが複雑な曲が多いのでアコースティックで聴いてみたいと思わせる。

 しかし、音楽のプロがこの歌詞にはこの音だと試行錯誤あるいは天啓の果てに載せ、それをあまねく売りたい人達も「良し」と手を打ったなら、素人(私)はまづ自分の舌ならぬ耳を疑い、その奥の心も疑ってみるべきであろう。特に私は「ポップ(日本)」というジャンルをろくに知らないのだから猶更である。
 また不思議なことに、歌詞を見ながら聴くとまた違った印象になる。詩の情景が前面に出て来て、個々の音はほとんど意識しなくなる。歌による言葉がダイレクトに耳穴から入ってくる。

 

「星を待つ」と「∞」について
 2ND『Close to heart』の収録曲に「空が待ってる」があります。そこで歌われる空は晴れた空だけど、あなたとおこした風で得るという、かなり能動的な空なんですね。能動的というか確信的予言的といっても良い感じ。
 それに対して「星を待つ」は大切なものを受取ってるけどもう離れ離れになってしまってて、ひたすら祈り乍ら待ってる感じ。ああなんか両曲間に連続性のあるドラマが垣間見えます。悲しいけど必死に堪えて堪えて堪えてる、泪は無いけど泣いてる人。それがみえる。けど最終的には夜が明けてるからやっぱり口から中ヘ入ってますな。星。
 宇宙を舞台にお互いが星になることを歌った「スウィングバイ」や「レコードのように」にも通じる世界観だけど、雰囲気は全然違う。
 「空が待ってる」は一緒に居る。「スウィングバイ」はまだ出逢っていない。「星を待つ」は別れた曲だけど愛してた人との死別を思わせる。「レコードのように」は多義的で、まだ出逢ってない人と出逢った人、そして離れていった人に向けてのメッセージになってる。深刻さは無くて「いつも見てるよ(圧)」「憶えてるよ(圧)」みたいな圧圧ソングですね。

 こうして見るとよく分かるけど、2ND、3RD、4THで似たテーマや世界観の曲って割とあるんだけど、雰囲気が全然違うのね。その歌詞世界の主人公の置かれた状況が異なるといっても良い。同じ時代あるいは同じ日・同じ夜に同じ空を見上げてるんだけど、一人ひとり「物語」は違ってる。そういうオムニバス的な、アルバムを横断するストーリーを感じます。
 しかし周囲へ死を予感させた人も、生きている(To Be Alive)な点は一貫して共通しています。
 なんだけど、それが本作の③「∞」では曖昧なまま(死と向き合ってる状況のまま)なのが斬新というか、踏み込んでますよね。より肉薄してる。けどタイトルは未来に対して不変的であることを暗示してる。
 ただ僕は死者の物語としても観じるところがあるので、そこがまた非常に興味深いというか高く評価する部分でもあります。生→死には行き着かないけど、実はもう死んでてインフィニってるという解釈。そしてそっちのほうが圧倒的に美しく悲しい。(個別の心象については前回記事に精しく書きました)

 星はギリシア神話など西洋との結び付きが強いので、そちらに精しい人ならまた違った解釈があるかも知れません。(日本の記紀神話では「悪しき神」と云うだけでほとんど語られません。この理由としては太陽信仰との関係が指摘されてます)

 

パッケージの仕掛け?
 日本でパッケージされるCDは普通、ひもの付いたビニールで包まれていて、紐を引いて封を切り、ビニールを外す形のものが基本だが、本作はシュリンクで全体がくるまれた珍しい形式だった。
 思うにこれはヴェイルをめくる・剥がすということが意図されている。

 

Q:どの曲が好き?
 ③か⑬ですが、③は全体の中で完成度が頭一つ高いけど、重い。①~④は重い。毎日は聞けない。⑥⑧も息苦しさがある。
 そうすると、⑬かな。神曲の「Level off」と同じ作詞・作曲者のエレクトロ系の曲ということもあって(ただしアレンジは今回違う方が担当)。①も同じ人たちが作ってるからやっぱりアレンジって大きく印象を左右するなと思った。
 あと⑤。インパクトでは劣るけど、聞けば聞くほど味が染みてくる。純愛系昼ドラ(少女漫画原作)の主題歌みもある。(『砂時計』とか)

Q:一聴目から印象が変わった曲ある?
 ③ですね、、別格で突出してるのは変わらないけれど、「流氷の下」って最初は美しいイメージだったのが、誰も居ないよな。こんな処まで来る人も滅多に居ないよな。アザラシとペンギンくらいだな。うちにはゴマちゃんとコウペンちゃんが居る。ああ、これって僕のことみたいだな。云われてみれば生きてるのか死んでるのかよく分からない気もする。。。生物的には生きてるけど、社会的には死んでるに等しい。そう改めて自覚した。いや、させられた。素敵な歌声で。

Q:今作はどんな人におすすめ?
 メロウな曲調で生々しい歌詞をたおやかに歌い上げるスタイルとして、鬼束ちひろが好きな人におすすめできる。麻枝准のサウンドが好きな人にもおすすめ。これらほど分かりやすくキャッチーではないが、通じるものは多分にあると思う。

 

追伸:『The Awakening HACHI Edition』の「Amber。」について
 『The Awakening』はLIVE UNIONというグループ名義で出されたシングル。その「HACHI Edition」にHACHIの歌う同名曲のほか、ソロの新曲「Amber。」が入ってます。

amber:琥珀色。黄色。
 ミッドテンポの曲調に主声とバッキングボーカルが軽快にクロスハーモニーするサビが印象的な、いかにもシングルのB面といった感じの佳曲。楽曲単体でも音源を買えますが、インストバージョンも欲しいならCDを選択してください。(歌詞と応募券も付いてます)
 え?A面? えーと、、ここまで読んでくれてありがとう!参考になれば幸いです!